論文には型がある
ここでは大体の社会科学の実証研究1に共通している論文の型を説明する。研究内容に独創性は求められるが構成に独創性は求められていない。人に伝えるための構成である。IMRADとも呼ばれる。
それぞれのパートで何をどのように書くのかを説明する。
簡単に構成をまとめると以下のようになる。もっと書くべきことはあるので、各章を参照してほしい。
書くこと
はじめにでは論文の全体を示す。はじめにを読んだだけで論文全体の内容がある程度わかるように書く。ネタバレをしてよい。
研究目的は大きな問いということができる1。 大きな問い = 研究目的 = 問題意識、この辺りの言葉を無差別に使います。
大きな問いは一つの研究で解決するようなものではない。でも、みんなでその問いの解決に向かって研究をすればいつかは解決するのではないか、してほしいなあ、するべきだという道や方針を明確にするためのものである。
問題意識は論文の中で一番大きな範囲の話をする。例えば、コロナによって旅行代理店は大変でしたねとか、サステナビリティはどの企業も避けて通れませんねとか、人口減少で労働力が減りますねとか。 一方で、世の中的に需要(関心)が大きい問題には供給(研究)もたくさんある。つまり、ライバルが多い。
問題意識で重要なのは需要の大きさではない。良い問いであれば良く、供給されてない事が必要である。例えば、ラジオ業界は…とか、プロスポーツチームの経営は…とか、社内部活動の実施は…とかの業界や範囲が狭くても良い問いは設定できるはず。
論文は誰かが読む。その人はその研究の結果は知らない。だから、その人に知らないことを教えることになる。そのため、この論文を読むべきだ、ということを伝える必要がある。 いい研究をしていい文章を書けば、読み手が勝手に良い評価をしてくれるわけではない。この論文の良いポイントはここであるということをアピールする必要がある。この論文はどのような価値があるのか(先行研究とどう違うのか、どう新しいのか)を積極的に書く。
書くこと
すでにわかっていることを研究してもしょうがない。大きな問いの中で何がわかっていて、何がわかっていないのかを明らかにする。大きな問いは大きいので同じような興味関心を持っている人がすでに何らかの視点を持って研究している。それが先行研究である。 先行研究を整理することでこの研究ですべきことを明確にするのがこの章の目的である。
先行研究のわかっていないことを問いとして読者に示す。 ここでの問いを研究課題(Research Question; RQ)といい、小さな問いと呼ぶことにする。 これは仮説ではない。
例えば、決算早期化の有効性を大きな問いとして提示しているとする。先行研究Aでは、大企業ほど決算早期化をしていることが示されている。先行研究Bでは業種によって早期化の程度が異なること、先行研究Cでは決算早期化していると株価が高まることが示されているとする。 一方で、このどれもが決算早期化すると財務業績が高まるかについては検証されていない。そこで、本研究では決算早期化すると財務業績が高まるのかを研究課題とするという流れである。
このとき、わかっていないことは、異なるx->yの関係を研究課題とせよということに限らない。例えば、同じx->yの関係でも、先行研究は1970年台の話をしていて、今は違う環境だろうとか、特定の業種の話をしていて、別の業種では環境が異なるので結果が変わるかもしれないとか、理屈による説明や単独企業の逸話だけで統計的な検証をしていないとか、さまざまな差別化の点が考えられる。この差別化できることを説明すれば、同じx、yであっても研究課題となる。
論文によっては研究目的だけ記載されていたり、研究課題だけ記されていたりする。
先行研究レビューで取り上げる研究の必要最低限の情報として、次の情報が欲しい。 以下に示したような箇条書きではなく、文章にする。
ただし、研究によっては研究目的がなかったり研究課題がなかったりする。両方ないことはない。研究課題がない場合、「研究課題に対する答え」の箇所は研究目的に対する回答を書く。
書くこと
この章は「分析方法とデータ」とかっていうこともある。 問いを立てたら問いを解く。ただし、考えられる解き方は一つではない。そのため、自分がどのように解くのかを示す必要がある。加えて、同じ問いを抱えた他者が同じように研究できるようにデータソースや分析手順を記して残すという目的もある1。
書くこと
分析結果はあくまで発見事実を述べる箇所であり、同じデータと同じ方法で分析すればみんな同じ答えを得る客観的なものである。一方で、考察の方は結果をどう考えるのかの場所であるから人によって異なる考察を行う可能性もある主観的なものである。両者をごっちゃにするとややこしいので段落を分けるなどして明確に書き分ける必要がある。
考察において気をつけるのは「結果を受けてこうすべきだと思われる」ということを書くわけではないということである。「なぜ今回の結果が得られたのか」を書く場所である。「さっき言ったでしょ、研究課題立てるところや要因を選択する理由を説明する時に言ったでしょ。データで分析しても同じ結果になったでしょ」という箇所なので新情報はできる限り出さない。必要なのであればそれは研究課題の前後あたりで書けるはず。
ex.
書くこと
繰り返し。結論だけ読む人もいる。この章で論文全体を再確認する。
「研究の限界を克服するとこんなことが分かる」、「今回の研究から発展させてこんなことを明らかにするためには、このような限界を超えなければならない」という具合に、将来の展望と研究の限界はセットである。
一つの研究で全てのことを明らかにすることはできない。だからこそ自身の研究にはどのような限界があるのかを理解し、読者に示してあげることが大事になる。
書くこと
本文で参照した参考文献は全てここにも書く。本文での書き方と参考文献リストでの書き方は異なる。
参考文献の書き方は分野によって異なるが、ここでは経営学でよく使われる方法を紹介する。
どの位置で参考文献を明示するのかで書き方が変わる。文中、文末、参考文献リストの3種類である。
文中で参照する場合、 著者名苗字 (出版年) とする。ex. 石田 (2020) は経営者の在任期間と経営者予想の正確度の関係性について研究を行った。
文末で参照する場合、 (著者名苗字, 出版年) とする。ex. 経営者の在任期間と経営者予想の正確度にはU字の関係性であることが報告されている (石田, 2020)。
参考文献リストでは本文 (文中 + 文末) で登場した文献の詳細な情報を一覧にして載せる。細かくみると論文なのか書籍なのかホームページなのかなどの種類によって書き方がやや異なる。大抵は 著者名フルネーム. 出版年. 「論文のタイトル」『収録雑誌』雑誌の巻号. ページの範囲. とか 著者名フルネーム. 出版年. 『ホームページのタイトル』URL. 最終アクセス日時 とかになる。その際、第一著者の五十音順に並べる。
ex.
さらに細かな書き分けは赤門マネジメント・レビュー 執筆マニュアルが参考になる。
論文ではさまざまな箇所で理由を書かないといけない。 問題意識はなぜ問題なのか。この研究はなぜ必要なのか。 研究課題はなぜ問わないといけないのか。 なぜその研究方法を選んだのか。 なぜそのデータを使うのか。
自分の行い全てに理由をつけられるようにする。
基本的に自分が好きだからとか興味があるからといった感情的・自己本位な理由ではなく、社会的な理由や客観的な理由であることが求められる。
最初は広い話をする。社会全体とか業界全体とか。次第に、問いが明確になり、焦点が絞られる。その後、具体的に目の前にあるデータレベルの話になり、分析結果と考察をする。最後の含意でまた社会全体の話とか業界全体の話のレベルに広がって終わる。
ゼミ